意思の尊重と身上の配慮との緊張関係の中で

後見人として事務を行う上で常に肝に銘じていることは、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない、という民法858条の規定です。他方、本人の主観的価値である意思を尊重することと、客観的福祉となる本人の保護のために身上に配慮するという相対立する緊張関係の中で、対応に苦慮しているというのも事実です。

今年は、脳血管性認知症を患う本人が、タクシーを使って外出というか徘徊を繰り返し、その対応に苦慮する1年でした。当初、本人は、月1回〜2回、タクシーで外出することを唯一の楽しみにしていたようです。タクシー料金は、いつも2千円程かかりましたが、特にトラブルもなかったので、後見人と施設関係者は、本人がタクシーで外出することを静かに見守っておりました。ところが、しばらくすると、妄想による作話をするようになり、その作話を口実にしてタクシーで外出するというように行動が変化していきました。そこで、担当者会議を開き、精神科を受診することに決定しました。

それから間もなく、本人は、お金も持たず、深夜に施設を抜け出してタクシーに乗り、高速道路を経由して100q以上も徘徊した後、交番で保護されるという事態が起こってしまいました。その直後に本人に会いましたが、全く覚えていない様子でした。その後も、タクシーで徘徊し、二日連続で交番に保護されるという事態となりました。これまでは、本人の意思を尊重しながら日常生活で拘束のない暮らしを目指してきましたが、本人の安全を考えて、区役所担当部署と支援者で検討し調整した結果、精神科病院に医療保護入院をすることになりました。意思の尊重と身上配慮という緊張関係の中での辛い選択でした。

今は、月一度、病院を訪問して本人と面会しています。今回の医療保護入院を契機に、5年前の後見申立時には関わりを拒否していた姉妹らに、後見人として、初めて連絡を取りました。首都圏からは姉が、道内地方都市からは妹が見舞いに来てくれました。本人は、見舞いに来た姉妹らや後見人に会う度に、「退院したい」と訴えます。後見事務の難しさを改めて痛感しているところです。今後は、主治医の意見を聞いて「本人の安全」に配慮し、また、本人の人生をよく知る姉妹らの力を借りて「本人の意思」を尊重していきたいと考えています。

      (北海道成年後見支援センター会報 どさんこ通信 第10号 寄稿)

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